会計士見習いの日記

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株式分割で株価はなぜ上がる?好決算+株式分割発表のアップルが時価総額世界一を奪還

アップル時価総額、再び首位 アラムコ抜き8カ月ぶり

「アップルの時価総額は1兆8400億ドル(約193兆円)に達した。時価総額で世界首位に立つのは、アラムコが新規株式公開(IPO)を果たす直前の2019年12月10日以来となる。」

アップル株は31日、前日に発表した好決算を受け、終値ベースで前日比10%高と急伸した。新型コロナウイルスのまん延で在宅での学習や勤務が増え、同社製品の需要が拡大した。20年4~6月期の売上高と純利益は市場予想を上回った。同時に株式分割を発表し、個人投資家がアップル株を買いやすくなるとの思惑も株価を押し上げた。」

日本経済新聞電子版2020 8/1付)

 

 アップルが時価総額*でサウジアラビア国営企業サウジアラムコを抜いて首位に返り咲きました。

*時価総額は「株価×発行済株式総数」で計算できます。

アップルの株価が400ドルの大台を突破した背景としては、①好決算に加えて②株式分割の発表という2つの要因があります。

まずは、①好決算の発表ですが、コロナウイルスで多くの企業が打撃を受ける中、アップルは在宅勤務・学習の恩恵を受けむしろプラスの影響を受けました。売上高は四半期としては過去最高を記録し、アナリスト予想を大きく上回る決算が投資家に好印象を与えたようです。

株価上昇の2つ目の要因として②株式分割の発表が挙げられます。

株式分割とは、その名の通り発行している株式を一定割合で分割することで、例えば分割割合が1:2であれば投資家は既存株式1株に対して、新たな株式を1株受け取ることになります。

今回のアップルのケースでは分割割合が1:4に設定されているので、1株に対して3株を受け取ることになります。

株式分割では、1株あたりの株価が分割割合に応じて減少するため、分割の前後で投資家が有するトータルでの経済的価値に変化は生じていません。例えば、400ドルの株式が1:4で分割された場合、株価は1/4、つまり100ドルになります。このとき投資家の有する経済的価値は100×4=400で分割前と変わりません。とすると、株式分割によって投資家が受ける恩恵とはなんでしょうか?

その恩恵とは一言でいえば「流動性の向上」です。

株価は需要と供給の一致で決まりますが、株式の「流動性」は需給に影響を与えます。ここでの「流動性」とは簡単にいうと、「株式がどれだけ買いたいときに買え、売りたいときに売れるかを示す度合い」のことをいい、通常流動性が高いほど価値は高く、逆に低いほど価値は低くなります。

例えば、一株あたりの経済的価値が等しい2つの企業(A,B)を想定します。

  • 企業A:上場企業、一日の株式売買は平均100万株
  • 企業B:上場企業、一日の株式売買は平均1千株

企業A,Bを比較したとき、株価が高いのはどちらでしょうか?

それは「企業A」です。

企業Aのように頻繁に株式が売買されていれば、投資家は好きなタイミング・価格で売買をすることができます。

しかし、企業Bのように取引機会が少なければ、理想の条件で売買できる可能性は相対的に低くなります。

 このため合理的投資家であれば、取引機会の多い企業Aをより高く評価するのです。

極端な話をすると、利息が同じとき「好きなタイミングで引き出せる銀行」と「1年に一度しか引き出せない銀行」なら前者を選びますよね。

投資家にとって流動性は高いほど都合が良いのです。

株式分割を行うと、投資家に帰属する実質的な経済的価値は変わらない一方で、市場に出回る株式の数が多くなることでその流動性は高まります。

このように株式分割による流動性の向上が株価の上昇要因となるのです。