会計士見習いの日記

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"Profit is an opinion, Cash is a fact" - 会計利益とキャッシュフローの違いとは

黒字・赤字というような会計利益と、キャッシュフロー(現金収支)の違いについて感覚的に違うものだとわかっていても、きちんと説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。

今回は会計利益とキャッシュフローの違いについて書いていきます。

 会計の勉強をしていなかった頃、「○○株式会社、××億円の黒字」という新聞の記事を目にしたとき、僕は「あー、この会社こんな儲かったんだなぁ」と思っていました。当時の僕は会計上の利益額とキャッシュフロー(現金の収支)の違いをきちんと考えていなかったのです。しかし会計の勉強をしたことで、会計利益とキャッシュフローは全く異なるものであると知りました。

 では、会計利益とキャッシュフローの具体的な違いはなんでしょうか。

 まず、両者は根本的に計算対象が異なります。利益計算が会計上の資産・負債を増減させる項目を対象とするのに対し、キャッシュフローは会計上の資産の一部である「現金及び現金同等物」(以下、現金等)を増減させる項目のみを計算対象としています。つまり、キャッシュフローよりも会計利益の方が圧倒的に計算範囲が広いのです。

 また、計算を行うタイミングにも違いがあります。それを端的に表した有名な言葉が「Profit is an opinion,  Cash is a fact」です。「利益は(経営者の)意見、キャッシュ(フロー)は事実」という意味で、会計利益とキャッシュフローの違いを端的に表したものです。キャッシュフローは実際に現金等の増減があった場合にのみ計上される一方で、会計利益には資産・負債を実際に増減させた項目のみではなく、経営者の見積もりなどが含まれているのです。経営者の見積もりは例えば、貸倒引当金減価償却費の計上が挙げられます。つまり、キャッシュフローは客観的事実のみで計算されるのに対し、会計利益には主観的要素が含まれており、一定の不確実性を有しているのです。この不確実性については次の章で詳しく触れていきます。

 

  • なぜ会計利益に主観的要素をもたせているのか

 会計利益に客観的要素(見積もり等)が含まれている以上、収益・費用が計上されたからといって確実に資産・負債の増減が生じるわけではありません。その意味で会計利益には不確実性が内在していると言えます。

 「会計利益は事実が生じた場合のみ認識するようにすれば、信頼度も増すし、キャッシュフロー計算署との整合性がとれ、わかりやすい情報になるんではないか」という意見もあると思います。確かに、事実のみに基づいた会計処理にすれば、会計利益のわかりやすさは向上するのかもしれません、しかし現在の会計基準における究極の命題は「投資家にとって有用性のある情報を提供すること」であるとされます。事実に基づく情報だけで投資家にとって有用な情報を提供できるでしょうか。例えば、以下のケースではどちらが投資家にとって有用な情報になるでしょうか。

 

「A社はB社に貸付を行っているが、B社は財政難に陥っており、来期にはほぼ確実にデフォルトが起こると予想されている。」

 

このとき、当期の会計処理として①事実のみに基づく処理と②見積もりを反映した処理の二通りを想定するとします。

①の場合、当期にデフォルト(事実)は生じていないので現時点では何ら会計処理を行いません。一方で②の場合、現時点で一定額の貸倒損失を計上する必要があります。

このとき上述した状況において、会計利益が主観的要素を含んでいることで、投資家に対して警告を発することができ、また投資家がその情報を投資判断に用いることができるのです。

企業側、会計士側がこのケースのような事実に気づいているのにもかかわらず、投資家(プリンシパル)に対して何ら情報発信をしないというのはエージェント、監査人としての役割を放棄していると思います。つまり、会計の至上命題=投資家への有用な情報提供を果たすためにも、客観的事実だけでなく一定の主観的要素は必要とされるのです。

 

  • 主観的要素が内在することのデメリット

以上、会計利益に主観的要素が入ることのメリットの部分に触れてきましたが、もちろんデメリットもあります。

例えばデメリットの一つに「恣意性の介入」があります。

キャッシュフローのように事実に基づいて計算される情報であれば、経営者がその情報を書き換えるためには事実自体を歪める(不正を行う)しかなく、情報操作を行うことのハードルは上がります。しかし、事実に基づかなくとも会計利益を計上できるのであれば、経営者には投資家に成績をより良く見せようとする思惑が働きます。このような利益操作は結果として会計情報の有用性を損ねる結果に繋がってしまいます。

「恣意性の介入」に対して、会計基準では、主観的要因は合理性・蓋然性*の側面から認識するか否かの判断が行われます。経営者の見積もりなどを反映するには、客観的な視点から合理性があるか、蓋然性は高いかが判断されます。つまり、(経営者の)意見の信頼度が高い場合にのみ認識が行われるのです。

このように、主観的要因の認識にあたっては一定のフィルターが設けられているものの、結果として会計利益と事実が乖離してしまう可能性はゼロではありません。ですがその可能性をできるだけ少なくする責任が経営者や監査人には存在するのです。

 

*蓋然性とは、将来的に事象が起こるか否かの度合いを表します。蓋然性が高いほど、将来的に事象が起こる可能性が高いということになります。

 

  • まとめ

以上の内容をまとめると、以下のようになります。

両者は根本的に計算対象が異なり、会計利益の方が計算範囲が広い。

キャッシュフローが客観的事実のみで計算されるのに対し、会計利益には客観的事実のみならず経営者の主観的要素が含まれている。

主観的要素が含まれている背景には、「投資家に対して有用な情報を提供する」という会計の至上命題がある。

主観的要素が含まれている以上、恣意性の介入などにより、利益操作が行われる可能性は排除できないというデメリットが存在する。