会計士見習いの日記

会計にまつわる時事ネタや実務で感じたことなどを投稿

③各基準でバラつく仮想通貨の会計処理

今回は仮想通貨がもたらした会計上の問題と今後の展望について触れていきます。

 

■ 仮想通貨の定義

まず仮想通貨って結局何なのか考えることが会計処理を考える上で重要となります。

そこで、まずは仮想通貨の定義を見ていきます。

仮想通貨の会計処理上の定義は下記の①②いずれかを満たすものとされています。

 

①物品購入・サービス提供を受ける場合に、代価の弁済のために不特定の者に対して使用できるもので、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却ができる財産的価値で、電子情報処理組織を用いて移転できるもの

不特定の者を相手方として①と相互に交換を行うことができる財産的価値で、電子情報処理組織を用いて移転できるもの

(改正資金決済法第2条6項より)

 

このため、不特定の者を対象としないものについては「仮想通貨」の定義には含まれていないのです。

 

■ 仮想通貨と法的通貨の違い

仮想通貨と法的通貨(ドル、円など)との決定的な相違点は2つあります。

それは ①仮想通貨は無形の資産であること ②発行主体に債務が生じないこと です。

 

①仮想通貨は無形の資産であること

法的通貨は紙や金属から作られる有形の資産です。

一方、仮想通貨は電子的データによる目に見えない無形の資産です。

 

②発行主体に債務が生じないこと

法的通貨の場合には、発行主体(日本で言えば日銀)にとって債務として認識され、貸借対照表上、発行時に負債が計上されます。これは発行主体が発行額分の債務を負うことでその分の価値を保証していると言えます。

一方、仮想通貨はマイニング業者*が新規発行の役割を担います。この際、生みの親であるマイニング業者には報酬が支払われるのみで、債務は負いません。つまり、仮想通貨は法的通貨とは違い、その価値を保証してくれる主体は存在ないのです(人々が勝手に「価値のあるものなんだ」って思うことで欲する人が現れ、実際に価値が生まれるわけです)。実際「仮想通貨」というと法的通貨との混同が生じる可能性があるため、国際的には'virtual-currency'から「暗号の資産」という意味で‘crypto-asset'と呼ばれるようになっており、日本でも「暗号資産」という呼称が一般的となっています。

 

*マイニング業者は仮想通貨の新規発行を行なっている事業者で、新規発行(マイニング)を行うことで報酬として一定単位の仮想通貨を報酬として得ることができます。

 

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■ 仮想通貨の会計処理(保有者側)

さて、本題の仮想通貨の会計処理ですが、実はこれについては各基準で対応が分かれていて、悩ましい問題になっています。

その最大の悩みの種が仮想通貨の会計上の分類をどうするかという問題です。

ここでは仮想通貨の会計処理に最も積極的な姿勢を見せている(と思われる)IFRSの考え方を例にとります。

 

IFRS上で会計分類を行うとすれば以下の選択肢が考えられました。

 

①金融資産(IAS第32号)

②無形資産(IAS第38号)

棚卸資産(IAS第2号)

 

ただ、仮想通貨は新たに生まれてきた概念ですから完璧に対応できる基準は現時点で存在せず、かろうじて上記の②及び③が適用可能なため、IFRSでは暫定的に③が適用可能な場合には③を適用し、それ以外については②を適用すると結論づけました。

仮想通貨って金融資産じゃないの?って疑問に思う方は(僕も思ってました)は以下の記事が参考になりますので、ご一読いただければと思います(P8から金融資産について書かれてます)。

EY, 仮想通貨の保有者の会計処理

https://www.eyjapan.jp/services/assurance/ifrs/issue/ifrs-others/other/pdf/2018-10-24.pdf

 

一方の日本基準においても仮想通貨の会計上の分類について議論されました。しかしながら、既存の概念で完全に対処できるものではないとして、新たに作られた暫定的な会計基準で処理を行うこととされました。ただし、これについても継続的な議論が必要だと考えられています。

 

仮想通貨への各基準の対応以下のようになります。

結論までの過程は長くなるので省略。

 

IFRS棚卸資産(IAS第2号)で処理できるときは処理、それ以外は無形資産(同第38号)で処理を行う。

日本基準→活発な市場*が存在するか否かにより判定を行う

活発な市場が存在→時価評価し、評価差額を純額で認識

活発な市場が存在しない→取得原価で評価し、低価法を適用

 

*活発な市場が存在するとは「継続的に時価に関する情報が得られる」ような状態をいいます。これを満たすためには取引が長期間にわたって十分な数量及び頻度で行われている必要があります。

 

 

■ おわりに

以上のように、仮想通貨を巡る会計処理は各国によって様々です。最後に、現在の仮想通貨の状況と今後の展望について書きたいと思います。

 

□仮想通貨は国際的に価値の担保された資産となりうるのか?

現在起こっているコロナショックでは金が最高値をつけました。これは金の価値が長い歴史を持ち、「一国のリスクに左右されず、高い財産的価値がある」世界の共通認識があるからです。仮想通貨も「一国のリスクに左右されない」という共通の要素があり、一見仮想通貨の需要が高まりそうな気がしますが、事実コロナショック時では仮想通貨が売り払われました(現在は徐々に回復しつつあるようですが)。過去に盗難事件が起こるなど、まだまだ安全面での不安が大きく仮想通貨の「安定した資産」としての価値が市場では認められていない客観的証拠であると考えられます。仮想通貨の決済手段としての利用はわずかで、現時点ではほぼ全て投機的にしか売買が行われていないといえます。

しかしながら、近年では、フェイスブック社が開発を進める仮想通貨「リブラ」など、世界的に信用のある企業や団体が中核となって新たな仮想通貨を発行する取り組みが見られます。課題は多く残りますが、こうした信頼のある企業が仮想通貨に「信用」を付与することで、世界規模で価値が担保された「グローバル仮想通貨」が生み出される可能性は確実に高まっています。

□今後、仮想通貨の会計処理は進展していくのか?

仮想通貨は新たな概念であり、既存の会計基準で完全に対応できるものではないため専用の会計基準作成の必要性があると考えます。しかしながら、現状ではまだ法令の整備が進んでおらず、会計制度もまだ十分に整備されていないと言えます(基本的に会計基準は法の整備が進んでからその枠組みで策定されるため)。しかし、仮想通貨の市場規模がいつ急拡大するかは誰にも予測できません。市場が拡大してから対応するのでは遅く、早急な法令の整備及び会計基準策定のためのの継続的な議論の必要性があると考えています。